吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

All The Things You Are の32小節目

転調を繰り返すのですが、冒頭5小節くらいまでと最後の12小節は平行調関係にあるキーにおさまてっいます。

さて、うしろから5小節目ですが、ここは階名「シーラ」なので、トニック・ディミニッシュの(転回形である)♭IIIdim7がメロディに合致します。

古い録音を聴くと、29小節目から、IVmaj7 | IIm7(♭5) | I/V | Idim7/V | のようになっているものが多い(下にあげた録音だとテイタムとウェブスターのものが近い)ので、原曲がそうなっているのかもしれません。

ところが、ところが、ところが、なのであります。

ジャズの演奏を聴くと、♭IIIdim7を避けて、♭IIIm7で演奏しているケースがとても多い。このコードは、この曲のストレート・メロディに合致しないにもかかわらず、です。

  • 1953年、Jazz at Massey Hall:♭VI7とか♭IIIm7-♭VI7に聞こえる。ちなみに、ベースの収録状況が悪く一部オーバーダビングしたという説が有力。
  • 1955年、Hampton Hawes Trio Vol. 1:VI7
  • 1556年、Art Pepper / The Way It Was! :♭IIIdim7
  • 1955年、Art Tatum with Ben Webster:Idim7/V
  • 1957年、Stan Getz / The Soft Swing:やや曖昧だが♭IIm7-♭VI7優勢か?
  • 1958年、Armad Jamal / At the Parshing:♭IIIm7-♭IV7
  • 1958年、Sonny Rollins / Live at Village Vanguard Vol. 2:♭IIIm7-♭IV7
  • 1963年、Bill Evans \ At Shelly's Mann-Hole:テーマは♭IIIdim7だがソロになると♭IIIm7

サンプルがやや少ないので、後日また追記しようとは思いますが、♭IIIm7や、♭IIIm7-♭VI7が意外と多いことにお気づきでしょう?

ふつう代理コードは、コードが「似ている」か、スケールが共通しているか(ドミナント・セブンス・コードのトライトーン代理はこっち)、その両方というケースがほとんどです。♭IIIdim7と♭IIIm7は、「似ているコード」といえるか微妙で、しかも、この曲の場合、ストレート・メロディにも合いません。

にもかかわらず、このような置き換えがなされているのは、一種のジャズのビバップ以降の作法あるいは慣習といえるのではないかと考えています。つまり理屈では割り切れないのです。ちょっと思いつくのではBody And SoulやEverything Happens To Meなんかにもそのような録音がありそう。

いずれにしても、All The Thingsは譜面なしで演奏することもあるので、共演者がどのように解釈して演奏しているか注意を払う必要があることだけは間違いありません。♭IIIm7で解釈するのであれば、テーマのメロディはコードに合わせて変更する必要があることは、いちいち書くまでもなかったでしょうか。