吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Just Friends の11小節目

話が前後しますが、この次の小節のメロディは階名「ラシドミ」(キーがFの場合D-E-F-A)で、コードが VIm7 の場合、コード・トーンのルート、長9度、コード・トーンの短3度、同じく完全5度となっています。

さて、11小節目に戻ります。信頼できる複数の曲集を参照すると、この小節のメロディは、階名「シソシソ」(キーがFの場合はE-C-E-C)です。そこで、実際にどのように演奏されているかを改めてチェックしてみましょう。

  • 1949年、Charlie Parker with Strings:コードは Imaj7(次の小節の前半まで。後半は VIm7)、メロディは、思いっきりフェイクしている。
  • 1955年、Chet Baker Sings and Plays:コードは曖昧でピアノ(Imaj7-III7 あるいは IIIm7-III7?)とベース(VIIm7(♭9)-III7?)で解釈が違うようにも思われる。メロディは「シソシソ」。
  • 1959年、John Coltrane/Coltrane Time:コードは、VIIm7(♭9)-III7。メロディは階名「レシレシ」(次の小節は「ドレミソ」)。
  • 1959年、Frank Sinatra/No One Cares:コードは、III7。メロディは、「レシレシ」(次の小節は「ドレミソ」)。
  • 1959年、Paul Chambers/Go:コードは、VIIm7(♭9)-III7。メロディは階名「レシレシ」(次の小節は「ドレミソソ♯」=アレンジされていて1音多い)。
  • 1963年、Sonny Rollins-Coleman Hawkins/Sonny Meets Hawk:コードは、IIIm7。メロディは「シソシソ」。
  • 1973年、Barney Kessel:コードは、IIIm7。メロディは「シソシソ」。
  • 1975年、Dexter Gordon:コードは、VIIm7(♭9)-III7。メロディは階名「レシレシ」(次の小節は「ドレミソ」)。
  • 1981年、Sarah Vaughan + Count Basie Orchestra:コードは、VIIm7(♭9)-III7。メロディは階名「レシレシ」(次の小節は「ドレミソ」)。
  • 1986年、Rob McConnell-Mel Torme:コードは、VIIm7(♭9)-III7。メロディは階名「レシレシ」(次の小節は「ドレミソ」)。
  • 1991年、Oscar Peterson Meets Roy Hargrove and Ralph Moore:コードは、VIIm7(♭9)-III7。メロディは階名「レシレシ」(次の小節は「ドレミソ」)。

ややサンプルが少なめなので、後日また追記しようかとも思いますが、考え方として次の2つの演奏方法があると思います。

  1. メロディをオリジナル通り「シソシソ」とし、コードを、Imaj7 あるいは IIIm7 とする。
  2. コードを次のVIm7へ進行しやすい VIIm7(♭9)-III7 とし、メロディも「レシレシ」に変える(次の小節も「ドレミソ」に)。

後者は、11-12小節目を27-28小節目と同じメロディやコードにするということです。一方、前者については、11-12小節目と27-28小節目で明らかにメロディもコードも異なります。

どちらの方法で演奏するかは、好みや選択の問題と思います。作曲者に敬意を払い、また、コーラスの後半へのクライマックスへのメロディやコードとの対比から、前半では抑制をきかせて演奏したいということであれば前者の立場でしょう。

しかし、それではトニック・メジャーやその代理コードが2小節も続くことになります。後者のほうがソロラインは組み立てやすく、全体に勢いが出るともいえます。その場合は、11-12小節目のメロディとコードを、ともに27-28小節目と同様に変更するということに魅力を感じるかもしれません。

ただし、一番よくないのは、メロディをオリジナル通り「シソシソ」としておきながら、コードをVIIm7(♭9)-III7 に変更することです。III7 に対して「ソ」は♯9だという主張は認められないでしょう。なぜなら、ここで、III7(♯9) を演奏するとしたら、III7alt になるはずで、III7(♯9, ♮13)にはなりにくいからです。III7alt で「シ」を使うことはできません。

あと、気になる点として、私は持っていないですが猫も杓子もお持ちの“例の”曲集、27-28小節目がなぜか IIIm7-VIm7 になっているようです。誰がそんな演奏しているのでしょう。気が向いたら記事にしましょうか。