吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

But Not For Me の7-8小節目

言いたいことがたくさんある But Not For Me なのですが、この箇所についてはあまり議論になっていない気もします。

メロディは階名「ミ」で伸びていて、次の小節に向かって8小節目の2拍目から四分音符で「ミファソ」とあがって行きます。

7小節目がトニック・メジャー、8小節目がサブドミナントへのセカンダリドミナントI7となっている譜面をよく見るし、そのような演奏もジャム・セッションなどでは耳にします。理論的にもまったく問題ありません。

ところが、私にとってはとても違和感があります。これまで聴いたなかで、そのように演奏していたレコードってあったかなあと思うのです。

いくつか音源を聴いてみましょうか。

  • 1950年、Ella Fitzgerald と Ellis Larkins のデュオ:Vm7 | I7 |
  • 1953年、Buddy DeFranco/Mr. Clarinet:テーマは、I7 VII7 | ♭VII VII7 I7 / | (キックあり)。ソロは Vm7 | I7 |
  • 1953年、Modern Jazz Quartet/Django:I7 | I7 |
  • 1954年、Chet Baker Sings:♯Im7 | ♯IV7 |
  • 1954年、Miles Davis/Bag's Groove:I7 | I7 |
  • 1956年、Billie Holiday:Vm7 | I7 |
  • 1957年、Bev Kelly + Pat Moran Trio:I7 | I7 |
  • 1957年、Red Garland's Piano:Imaj7 | I7 | のように聞こえる。
  • 1958年、Ahmad Jamal/At The Pershing:I7 | I7 |
  • 1960年、Julie London/Around Midnight:Vm7/I I7 | Idim7 I7 |
  • 1960年、John Coltrane/My Favorite:IIImaj7 V7/II | Vm7 I7 |(いわゆるコルトレーン・チェンジから抜けるところ)
  • 1967年、Dexter Gordon/Live At The Montmartre Jazzhus:I7 | I7 |
  • 1967年、Ann Burton/Blue Burton:I7 | I7 |
  • 1973年、Bill Evans/The Eloquence:Vm7/I ♯IVdim7 | Vm7 I7 |
  • 1979年、Frank Sinatra/Trilogy: Past, Present & Future:I7 | I7 |

いろいろありますが、やはり I7 | I7 | や、それから派生したものが大半であることは間違いないでしょう。

もちろん、理論的にImaj7にいっても構いません。

ところが、ここは歌詞がBut not for me の me のところで伸びているところです。つまり、ちょっと拗ねているようなところで、トニック・メジャーに解決しちゃってよいのか、という素朴な疑問。歌詞とコードがミスマッチではないのか、と思わずツッコミを入れたくなります。

皆さんは気になりませんか? 特にボーカリストの方。あるいは歌手との演奏経験の豊富なピアニストやギタリストの方。