But Not For Me の13-14小節目
ここは、メロディとコードとの関係で非常に悩ましい箇所です。
ジャム・セッションでは、この2小節目を II7 とするか、あるいは、VIm7 | II7 | などとするケースが多いように思います。
ところが、ここのストレート・メロディは、階名で「ミーファド | ドラファ」で、メロディの「ファ」がII7の3度(ファ♯)と衝突します。メロディの「ミ」が II7 の9度のテンションにあたりますから、この「ファ」を♯9と解釈することができないことは自明です。
この2小節を IIm7 とすると、メロディとコードの問題を解決することができます。ところが、12小節目までほぼ1-2小節ごとにコードが進行してきたのに、この2小節を IIm7 で演奏すると、13-16小節全体が大きな IIm7-V7 となり、ハーモニック・リズム的にやや停滞するし、ジャズ・ハーモニーの観点から、またソロの素材としても正直なところあまり魅力のないものになってしまうように感じるのです。
というわけで、先人たちはどのように演奏しているのか、あらためて聴いてみましょう。
- 1950年、Ella Fitzgerald と Ellis Larkins のデュオ:IIm7 VI7 | IIm7 |
- 1953年、Buddy DeFranco/Mr. Clarinet:テーマは IIm7、ソロは II7
- 1953年、Modern Jazz Quartet/Django:テーマはアレンジしていて IIm6 | IIm7 | のような感じ? ソロはサンプルが少ないが少なくとも II7 ではない。
- 1954年、Chet Baker Sings:IIm7。前テーマで、ラス・フリーマンが II7 で始めて、IIm7 に訂正している様子が興味深い。やはり同じところに注意を払っていたのだろうか。
- 1954年、Miles Davis/Bag's Groove:II7。前後テーマはフェイクしてかわしている。
- 1956年、Billie Holiday:IIm7
- 1957年、Bev Kelly + Pat Moran Trio:II7。メロディ変更なし。
- 1957年、Red Garland's Piano:テーマは IIm7、ソロは II7
- 1958年、Ahmad Jamal/At The Pershing:IIm7
- 1960年、Julie London/Around Midnight:IIm7
- 1960年、John Coltrane/My Favorite:原則として II7。前テーマはフェイク、後テーマは、トレーンがストレートメロディを演奏したのをきいてリズムセクションがIIm7に対応。
- 1967年、Dexter Gordon/Live At The Montmartre Jazzhus:テーマは IIm7、ソロは II7
- 1967年、Ann Burton/Blue Burton:II7。メロディ変更なし。ピアノがややためらいがちに弾いているようにも聞こえなくもない。
- 1973年、Bill Evans/The Eloquence:メドレーのため、テーマのみで IIm7。
- 1979年、Frank Sinatra/Trilogy: Past, Present & Future:IIm7 | VI7 |
私が聞き直した範囲ですが、想定通り気にしない人は気にしないものの、予想していた以上にみんな気にしているようで正直ホッとしました。
やはり、歌のようにストレート・メロディを演奏することが明らかな場合は気をつけたほうがよいし、また、インストゥルメンタルの場合も、ストレートでくるのか、フェイクするにしても IIm7 前提なのかそれとも II7 なのか見極めて対処する能力がリズム・セクションのプレイヤーには求められます。
エラとエリス・ラーキンスとのデュオ、あるいはシナトラの1979年の録音のように、VI7を効果的に使う方法もあるようで勉強になります。