吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

You'd Be So Nice To Come Home To の25-26小節目

ABAC形式のセクションCの冒頭2小節です。

ジャム・セッションのように譜面なしで演奏するときにいつもどうしようか悩むところです。いくつか音源をきいてみましょう。

  • 1953年?、Bud Powell:VIIm7(♭5) | III7 | (ストレート・メロディにあわないが、大きくフェイクしている。)
  • 1954年、Helen Merrill with Clifford Brown:♯IVm7(♭5)-VII7 | IIIm7 |
  • 1956年、Frank Sinatra/Swingin' Affair:♭IIIdim7 | I/III | (直後の2小節は IVmaj7 | ♯IVdim7 | )
  • 1956年、Cecil Taylor/Jazz Advance:不明だが後テーマをきく限り25小節目は♭IIIdim7か?
  • 1957年、Art Pepper Meets The Rhythm Section:♭IIIdim7 | Imaj7(/III) |
  • 1957年、Sonny Stitt/Personal Appearance:IIm7 | III7 | (平行調の IVm7 | V7 |。メロディも17-18小節目のものに置き換えられている)
  • 1957年、Paul Chambers/Bass On Top:IIm7 V7 | Imaj7 |
  • 1957年、Coleman Hawkins Encounters Ben Webster:前テーマでは混乱しているがピアノソロを聴くと ♯IVdim7 | I/V | (直後の2小節は、♯Vdim7 | VIm7 | )
  • 1958年、Chet Baker/Chet:♭IIIdim7 | I/III | とも ♯IVdim7 | I/V | とも。前後テーマは前者か。
  • 1958年、Sarah Vaughan/After Hours At The London House: ♯IVdim7 | I/V | (直後の2小節は、♯Vdim7 | VIm7 | )
  • 1959年、Julie London/”Julie...At Home/Around Midnight ”:♯IVm7 VII7 | Imaj7 |
  • 1960年、Anita O'Day Swings Cole Porter, Rodgers & Hart with Billy Way:♯IVdim7 | Imaj7 |(直後の2小節は、III7 | IVmaj7 | )
  • 1961年、Lee Konitz/Motion:♯IVdim7 | I/V |
  • 1974年、Lee Konitz-Red Mitchell/I Concentrate On You:♭IIIdim7 | I/III | (直後の2小節は IVmaj7 | ♯IVdim7 | )
  • 1975年、Jim Hall/Concierto:♯IVm7(♭5) VII7 | Imaj7 |
  • 1977年、Ann Burton/Burton for Certain:♯IVdim7 | I/V |(直後の2小節は、III7 | IVmaj7 | )
  • 1982年、Red Garland/Misty Red:♯IVdim7 | I/V |

基本的に、25小節目がトニック・ディミニッシュ、26小節目がトニック・メジャーという流れのようでした。常識的な選択肢としては、♭IIIdim7 | I/III | とするか、♯IVdim7 | I/V | とするか、どちらかでしょう。厳密なアレンジをしない限り、ピアノが一方的に指定するとヒステリックに聞こえることもあるので、このような箇所ではベーシストが決定したらスマートなのでは、と個人的には思います。

さて、25-26小節目のメロディと歌詞は、続く27-28小節目と対になっています(歌詞は脚韻を踏んでる)。よって、コードに関しても、ここは対になるようにしたいところ。

例えば、25-26小節目を上記のように、ベース音が上行形になるのであれば、続く2小節目も同様にするというように。

あるいは、25小節目を2拍ずつ動かすのであれば、27小節も2拍ずつ動かすと、ハーモニック・リズムの観点からも対の動きになります。

その視点であらためてきいてみると、シナトラ、サラ、アニタ、バートンの録音は前者、また、メリルとブラウンあたりは後者をきちんと意識していることがわかります。

ジュリー・ロンドンジム・ホールの25小節目はトニック・ディミニッシュ代理のVII7にマイナー・セブンス・コードあるいはハーフ・ディミニッシュ・コードを先行する例です。26小節目をIIIm7(これはトニック・メジャー代理でしょう)ではなくImaj7に進行させているあたりもちょっと興味深いと感じました。

このように、コードはメロディや歌詞ともリンクしているので、理論的にどうだということだけでなく、もう少し広く捉えて考えることが大切だということも、このようなケース・スタディの積み重ねから学ぶことができます。このような気づきを得られることは、私にとってとても幸福な時間です。