吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

I'll Close My Eyes の13-14小節目

ここは、テーマ中いつも気になるところです。

リハーモナイズしないのであれば、基本的には III7 だけれども、もちろん、関係コード(と私が呼んでいるもの。すなわち、ドミナント・セブンス・コードに先行するマイナー・セブンス・コードまたはハーフ・ディミニッシュ・コード)が先行しても良いと思います。

しかし、メロディが、階名レ♯です。したがって、もしストレート・メロディを演奏するのであれば、ハーフ・ディミニッシュ・コードは選択肢にならないと思います。

なぜなら、ハーフ・ディミニッシュ・コードに対応するロクリアン上に、メロディの音が存在しないからです(ロクリアン♯2の場合も同様)。一方、マイナー・コードに対応するドリアンにはちゃんと存在しています。

コード スケール ファ♯ レ♯ ファ
♯IVm7 ドリアン 1 2 ♭3 4 5 6 ♭7
♯IVm7(♭5) ロクリアン 1 ♭2 ♭3 4 ♭5 ♭6 ♭7

ちなみに、ドリアンの6度の音は、アヴォイド・ノートであると説明されることがあります。ただ、私の理解では、ドリアンの6度がアヴォイドになるのは、以下の2つ条件を同時に満たしたときです。

  • そのマイナー・コードが関係するドミナント・セブンス・コードに先行していること。
  • 6度がメロディではなく内声として使われていること。

この音は、前者の条件は満たしていても、メロディには使えると考えます。なぜ、この音が内声には使えなくてメロディに使えるかというと、そもそもアヴォイドは、短9度音程の禁則を回避するためにあるからです。内声に長6度を使うと、コード・トーンの短7度と予期せぬ短9度音程ができる可能性があります。加えて、この音は関係するドミナント・セブンス・コードの3度にあたるので、サウンドがよく似るため、進行感を阻害するので使用は望ましくないとされています。

ところが、メロディ(正確にはトップ・ノート)では短9度音程が生じる恐れがないこと、それに、関係するドミナント・セブンス・コードへの進行感は、内声の動きによって表現可能であることから、こんにちでは使用することができると理解して良いものと考えます。

さて、実際の録音を聴いてみましょう。

  • 1957年、Dinah Washington/The Swingin' Miss D:♯IVm7 VII7 | ♯IVm7 VII7|
  • 1957年、Kenny Burrell/2 Guitars:やや曖昧だが、♯VIm7 | VII7 | か。
  • 1958年、Sarah Vaughan:VII7 | VII7 |
  • 1960年、Blue Mitchell/Blue's Mood:VII7 | VII7 |
  • 1961年、Canonball Adderley/African Waltz:VII7 | VII7 |
  • 1965年、Jimmy Smith/Organ Grinder Swing:♭IIIm7 | ♭VI7 | (ストレート・メロディにはあわない)
  • 1995年、Keith Jarrett at the Blue Note: The Complete Recordings:♭IIIm7 | ♭VI7 | (ストレート・メロディにはあわない)
  • 1996年、Doug Raney/I'll Close My Eyes:テーマは♯IVm7 | VII7 | だが、ソロ中は、♯IVm7(♭5) | VII7 |

ソロ中は、ダイアトニック・コードであるハーフ・ディミニッシュ・コードとするほうが自然だとしても、少なくともテーマにおいて、ストレート・メロディを演奏するのであれば、不適切な ♯IVm7(♭5)が演奏されていないことが一目瞭然でしょう。

ソロにおいて、ドミナント・セブンス・コードに先行するマイナー・セブンス・コードやハーフ・ディミニッシュ・コードのとき、関係するドミナント・セブンス・コードのスケールに基づいてソロラインを構成することがあることも事実です。しかし、いわゆる歌ものの、ロングトーンによるメロディの場合は、メロディとコードに対応するスケールの関係はきちんと把握しておくことが望ましいと私は考えます。だいたい、響きが気になって仕方ないのです。調べてみたら理論的にも不適切だった、という流れが本当のところです。