吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Someone To Watch Over Me の17-20小節目

この曲のブリッジの前半です。

この曲を演奏する機会は少なくありません。特に歌手の人たちは様々な譜面を持ってくることが多く、なかには「おやっ」と思うものもありますが、なかには、一体何を聞いたらこんな譜面になるのか譜面の書き手の良識を問いたくなるようなものもあるにはあります(書き手は歌い手とは限らないでしょう。市販の譜面もあるかと思います)。

混乱したときは、音源にあたって冷静になってみるのが一番です。

  • 1944年、Billy Butterfield with Margaret Whiting:IV/V | Idim7/V | IVm/V | I/V |
  • 1944年、Eddie Condon with Lee Wiley:IVmaj7 | IVmaj7 | IVm6 | Imaj7 |
  • 1945年、Frank Sinatra:IVmaj7 | IVmaj7 | IVm6 | I/III |
  • 1949年、Art Tatum:IVmaj7-IVm6 | I/III-♭IIIdim7 | IIm7 IIm7/V | Imaj7 |
  • 1949年、Erroll Garner:1コーラス目は、IVmaj7 | IVmaj7 | IVmaj7-VII7 | Imaj7 | 、2コーラス目は、IVmaj7-VIm7 | IIm7-IIm7/I | IVmaj7-♭VII7 | Imaj7 |
  • 1959年、Blossom Dearie/My Gentleman Friend:IVmaj7 | IVmaj7 | ♯IVdim7-VII7 | Imaj7 |
  • 1959年、Ella Fitzgerald Sings The George And Ira Gershwin Song Book:IVmaj7 | IVmaj7 / / IVdim7| I/III / / III7 | IVm7 |
  • 1959年、Sarah Vaughan Sings George Gershwin:IVmaj7 | IVmaj7 | IVmaj7 | Imaj7 |
  • 1963年、Rosemary Clooney/Love:IVmaj7 | IVmaj7 / IIm7 V7 | Imaj7 / / III7 | VIm7 |
  • 1964年、Chet Baker Sings And Plays:前テーマは IVmaj7-Vm7 | VIm7-IIm7 | ♯IIdim7 | I/III / VIm7 VIm7/V | 、後テーマは転調後 IVmaj7 / Vm7 ♯Vdim7 | VIm7/ IIm7 IIm7/I | VII7-III7 | VIm7-VIm7/V 。いずれもストレート・メロディに対してやや強引な箇所がある。
  • 1977年、Doug Raney/Introducing Doug Raney:IVmaj7 | IVmaj7 | IVm6-♭VII7 | Imaj7 |

サンプルが少ないせいか、さほどバリエーションはありませんでした。

大きな傾向として、20小節目をImaj7とするかIVm7とするかで方針が決まると思います。もう一つ、ハーモニック・リズムの視点から、1小節あるいはそれ以上の単位でコードを捉えるか、もう少し細かな動きをするか、でしょうか。

なかには、ストレート・メロディとの関係から疑問なリハーモニゼーションもありました。例えば、Chet Bakerのアレンジャーは、一体どんな状況で仕事をしたのか尋ねてみたいです。

こまかなところでは、Eroll GarnerやDoug Raneyの19小節目の後半の♭VII7は、一見サブドミナント・マイナーの代理でよさそうなのですが、メロディと衝突するといえなくもありません。これがIVm6のままとどめておけばさほど気にはならないのですが。もっとも、♭VII7としてもメロディ階名シは弱拍の4泊目なので十分許容範囲と考える人もいるでしょうし、メロディの歌い方次第では気にならないでしょう。

1-2小節目をIVmaj7 のままとしている録音もありました。ただ、リズム・セクションのプレイヤーとしては、ゆっくりなテンポで同じコードが2小節続くことを嫌って1-2小節目に異なるコードをつけようとする傾向があるようです。もちろん、よりよい選択をしようとする姿勢としてはとても良いことなのですが、同じコードが続くと持たない、という自らの演奏技量を棚に上げているとしたら問題なような気もします。ブリッジ前半にあたる17-20小節目のコードの動き、ルート(ベース音)の動きをなるべく小さくしておいて、ブリッジ後半で劇的な変化(というほどでもないですが、相対的に見て)をもたらすという意図も読み取った上でぜひ判断したいと個人的には考えます。