吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Just Friends の7-8小節目

この曲を知っているようで知らないと反省したのは、ここのコード進行を問われて即答できなかったときです。

市販の曲集では♭IIIm7 | ♭VI7 | とでも書いてあるのか、ジャム・セッションではそのように演奏するケースが多いようです。

All The Things You Are の32小節目の記事にも書きましたが、この♭IIIm7 | ♭VI7 | は、ジャズでは♭IIIdim7 の置き換えとして使われるケースが多いです。まだ記事にしていませんが、他にもBody And Soul の8小節目もおそらくそのような例が見つかるかと思います。

♭IIIm7 | ♭VI7 |(♭IIIドリアン/♭VIミクソリディアン)と♭IIIdim7(♭III全音-半音ディミニッシュ)は、共通音がかなり限定(階名でド、ミ♭、ファ、ソ♭、ラ♭の5音)されていて、共通のスケールを持っていないにもかかわらず、ストレート・メロディに反してまで置き換えられる傾向があることはすでに説明したとおりです。

この曲の場合は、メロディが階名ソ♭のため、♭IIIm7 | ♭VI7 | と♭IIIdim7共通音になっているため、どちらで演奏してもよく、実際にどちらの演奏も見つかりました。

ただ、♭IIIdim7 だったものが、♭IIIm7 | ♭VI7 | に変化したのかなと予測をたてていたのですが、音源にあたってみると見事に外れました。

  • 1949年、Charlie Parker with Strings:♭VI7 | ♭VI7 |
  • 1955年、Chet Baker Sings and Plays:♭VI7 | ♭VI7 | 。コーラスによっては、♭IIIm7 | ♭VI7 |
  • 1959年、John Coltrane/Coltrane Time:特定不能。ソロラインなどからC7か。
  • 1959年、Frank Sinatra/No One Cares:♭VI7 | ♭VI7 |
  • 1959年、Paul Chambers/Go:♭VI7 | ♭VI7 | 、♭IIIm7 | ♭VI7 | 、♭IIIm7 | ♭IIIm7 | などが混在か。
  • 1963年、Sonny Rollins-Coleman Hawkins/Sonny Meets Hawk:やや曖昧だが、ピアノから♭IIIm7 | ♭IIIm7 | か。
  • 1973年、Barney Kessel:♭IIIm7 | ♭VI7 | か。
  • 1975年、Dexter Gordon:♭IIIdim7 | ♭IIIdim7 |
  • 1981年、Sarah Vaughan + Count Basie Orchestra:♭VI7 | ♭VI7 |
  • 1986年、Rob McConnell-Mel Torme:♭IIIm7 | ♭VI7 |
  • 1991年、Oscar Peterson Meets Roy Hargrove and Ralph Moore:♭IIIdim7 | ♭IIIdim7 |

もちろん、サンプルが少ないので楽曲研究としては精度に欠くことは認めます。ただ、調べた範囲では、♭VI7 | ♭VI7 |(≒♭IIIm7 | ♭VI7 | )のほうが圧倒的に主流でした。

Dexter Gordonの1975年の録音のように、IVmaj7 | % | IVm6 | % | I/III | % | ♭IIIdim7 | % | IIm7... というベースが緩やかに下りてくるラインを想像していたのですが。

なお、Coltrane Time のこの小節が謎です。スタンダード・ナンバーなので譜面を見ずにやっていたのか、それとも事前打ち合わせが不十分だったのか、原因は不明ながらリズム・セクションのコードの解釈がなんだか曖昧です。ただ、管楽器のソロラインを聞くと、II7に対してミクソリディアンやミクソリディアン♯4、あるいはホール・トーン・スケールに基づくソロが展開されているので、ここはII7と推定してよいのではと思います。

メジャー・キーのII7 と ♭IIIdim7(すなわちトニック・ディミニッシュ)にも、スケールが完全に一致しないので、あまり深い関係がないとみなす人もいるかもしれませんが、こんにちトニック・ディミニッシュで演奏されることがある 'S Wonderful の27-28小節目を、クラシック系のアレンジで II7 で演奏している音源を耳にしたことがあるので、オリジナルはそうなのではと推測しています。

ディミニッシュ・コードは、ドミナント・セブンス・コードのルートを省略して♭9を足して作ることができます。したがって、トニックディミニッシュは、II7、IV7、♭VI7、VII7と関係があります。

このうち、VII7 は、半音全音ディミニッシュが使われてトニック・ディミニッシュ代理として使われることはよく知られていますが、この記事では♭VI7とII7が登場しました。IV7について私は現時点でトニック・ディミニッシュと関係が深いと思われる事例を認知できていません。これも、もう少し時間をかけて調査してみたいと思います。