ハービー・ハンコックのDolphin Danceです。
大学のジャズ研のピアノの先輩が、イルカの着ぐるみを着てこの曲を弾いたそうです。私は入学前でしたから目撃していませんが。
さて、6小節目、譜面によってはA♭7となっていて、私もそれで覚えていたのですが、あらためて初録音と思われるハンコックのMaiden Voyageを聞いたらなんとA♭maj7ではないですか。
- 1965年、Herbie Hancock/Maiden Voyage: A♭maj7
- 1974年、Herbie Hancock/Dedication: A♭7
- 1977年、Bill Evans / I Will Say Goodbye: A♭7
- 2001年、Toots Thelemans-Kenny Werner: A♭7
ところか、1974年の自身の演奏では、A♭7に変えて演奏しています。その後、何人かの演奏(上のリスト以外も含む)を聞いてみましたが、A♭7のほうが圧倒的に多い印象です。
さて、オリジナルのA♭maj7の和声的機能はどう考えたらよいのでしょうか。
曲全体のキーはE♭メジャーですが、5小節目あたりからは平行調のCマイナーと考えるのが自然でしょう。すると、この前後は、Im7-♭VImaj7-Im7という文脈で考えることができます。
私は、実のところ♭VImaj7についてあまり深く分析したことがありませんでした。ただ、マル・ウォルドロンのCat Walkの冒頭が、Im7-♭VImaj7-IIm7(♭5)-V7になっているのを発見したとき、これは、一般的なマイナー・キーの「イチ・ロク・ニ・ゴ」であるIm6-VIm7(♭5)-IIm7(♭5)-V7のナチュラル・マイナー・スケール版といえるので、♭VImaj7はトニック・マイナー代理なのかなと考えていました。
念のため補足すると、Im6-VIm7(♭5)-IIm7(♭5)-V7のIm6-VIm7(♭5)部分は、いずれもメロディック・マイナー・スケールのダイアトニック・コードです。メロディック・マイナー・スケールは、トニック・マイナーと深い関わりがありますから、VIm7(♭5)はトニック・マイナーの代理コードであるという理解でよいと思います。実際、このコードを省略してもサウンドに大きな変化を与えませんし、Im6とVIm7(♭5)のコード・トーンはすべて共通しています。
他方、Im7-♭VImaj7-IIm7(♭5)-V7の前半部分は、ナチュラル・マイナー・スケールのダイアトニック・コードです。ナチュラル・マイナー・スケールがトニック・マイナーで使われることがありますから、これも同様に前半部分をまとめてトニック・マイナーと考えればよいのかなと考えていました。
ところが、Dolphin Danceの5-7小節目のIm7-♭VImaj7-Im7の♭VImaj7は明らかに前後のトニック・マイナーとは異なるサウンドを担っていますから、この場合、トニック・マイナー代理と考えるには無理があります。
したがって、この場合はサブドミナント・マイナー代理と考えるべきなのかと思います。
これは、メジャー・キーのダイアトニック・コードVIm7がトニック・マイナーであることもあれば、まれにサブドミナント・メジャーになることがあるのと似ていると考えればよいのかもしれません。
さて、Dolphin Danceの6小節目をA♭7としたらどうでしょう。これは、ダブル・ドミナントII7のトライトーン代理の♭VI7と考えるのがよいでしょうか。確かにドミナントには進行していませんが、ダブル・ドミナントはメジャー・キーならトニック・メジャー(特にI/V)に進行するように、マイナー・キーの場合はIm/Vに進行することがあるように思います(実例はなかなか思いつかないのだけれども)。ジャズの和声的機能はベース音を無視した「(分数の)分子」のほうで考えるので、ダブル・ドミナントの主要な進行先はドミナント以外にもトニック・メジャーやトニック・マイナーがあるはずです。実際、♭VI7-Im7という進行はほかの曲でも見かけるような・・・。