吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Someone To Watch Over Me の21-24小節目

この曲は全体的にコードのバリエーションがたくさんあって迷います。でも、あまり迷わない後半について書いてみようと思います。

たまに歌手の人と演奏すると、♯IVm7(♭5)-VII7 | ♯IVm7(♭5)-VII7 | IIIm7 VI7 | IIm7 V7 | のようなコードのついた譜面を渡されることがあります。確かに21小節目と22小節目は「ほぼ」同じメロディの繰り返しですから、同じコードの反復になっていても辻褄はあうのですが、どうも自分の記憶と照らし合わせると違和感があったのです。

というわけで、きいてみましょうか。

  • 1944年、Billy Butterfield with Margaret Whiting:♯IVm7(♭5)-VII7 | III7 | VI7 | IIm7-V7 |
  • 1944年、Eddie Condon with Lee Wiley:VII7 | III7 | VI7 | IIm7-V7 |
  • 1945年、Frank Sinatra:♯IVm7(♭5)-VII7 | III7 | VImaj7-VI7 | II7-V7 |(ただし2コーラス目の21小節目は VII7)
  • 1949年、Art Tatum:♯IVm7(♭5) | IV7-VII7 | IIImaj7 ♭VI7 ♭IImaj7 / | IIm7 V7 | ただし、23小節目はストレートメロディにあわない。
  • 1949年、Erroll Garner:VII7 | III7-♭VII7 | VI7 | IIm7(♭5)-V7 |
  • 1959年、Blossom Dearie/My Gentleman Friend:♯IVm7(♭5)-VII7 | VIIm7/III-III7 | IIIm7/VI-VI7 | II7-V7 |
  • 1959年、Ella Fitzgerald Sings The George And Ira Gershwin Song Book:VII7 | III7 | VI7 | IIm7 / IIm7/V V7 |
  • 1959年、Sarah Vaughan Sings George Gershwin:VII7 | III7 | VI7 | II7-V7 |
  • 1963年、Rosemary Clooney/Love:VII7 | III7 | VImaj7 | IIm7-V7 |
  • 1964年、Chet Baker Sings And Plays:♯IVm7(♭5)-VII7 | ♯IVm7(♭5) / III7 III7/II | VI/I♯-VIIm7 | Vm6/♭VII VI7 IVmmaj7/♭VI V7 | か?
  • 1977年、Doug Raney/Introducing Doug Raney:♯IVm7(♭5)-IV7 | III7 | VI7 | IIm7-V7 |

細かな違いはありますが、いくつかの例外を除いて大枠は一緒で、VII7 | III7 | VI7 | IIm7(またはII7)-V7 | という流れが大半です。

21小節目は、VII7 に対して関係コード(と私が呼んでいる)のハーフ・ディミニッシュを先行させて ♯IVm7(♭5)-VII7 とすることに私も異論はありません。ただ、それを22小節も同様に繰り返し演奏している例は見当たらなかったです。ひょっとしたら、もっと丁寧に探せばいくつか見つかる可能性はあります。しかし、それでも多数派とはいえないのではないでしょうか。

♯IVm7(♭5)-VII7 | ♯IVm7(♭5)-VII7 | IIIm7 VI7 | IIm7 V7 | といコードは理論的に誤りではありません。メロディとも整合性があります。

しかし、なんとなく安直に(広義の)「トゥ・ファイブ」でつないだだけ、という印象が拭えません。少なくとも私にとっては。

たとえば、23小節目の IIIm7 は III7 を選択肢に入らなかったのでしょうか。21小節目の4拍目の音は III の長3度上に相当していることを見落としたのでしょうか。

ちなみに、23小節目を VImaj7 としている録音をきくたびに私は少し嬉しくなるのです。ここであえて、メジャー・コードを使うということは一種の転調ということだと思いますが、私も以前、ここをこのキーに転調するアレンジを書いたことがあります。21-24小節目を、私は次のようなコードをつけました。

♯IVm7(♭5)-VII7 | III7 III7/II | ♯Im7 ♯Vm7 | IIm7 V7 |

23小節目を平行調同主調である VIメジャーに転調しているとすると、22-23小節目は、V7 V7/IV | IIIm7 VIm7 | と書けます。そして、23小節目のルートの動きは24小節目の半音下になっていて、スムーズに元のキーに戻っています。もちろん、23小節目の2つのマイナー・セブンス・コードは、どちらも VImaj7 をトニック・メジャーとしたときのトニック・メジャー代理にあたります。この曲の雰囲気にもマッチしていると思うのですがどうでしょうか。