吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Come Rain Or Come Shine の13-16小節目

この曲のもっともバリエーションが多い箇所ではないかと思います。

転調していると解釈できる演奏もありますが、混乱を避けるため敢えてメジャー・キーの文脈で書きます。

  • 1950年、Sarah Vaughan/In Hi-Fi:Im6 | Vm7 | VI7 II7 V7 / | IIm7 V7 |
  • 1954年、Dinah Washington/Dinah Jams:メモリーで演奏しているのか結構曖昧。13小節目は♯IVm7(♭5)-VII7 のように聞こえるが、次が、IIIm7(♭5)-VI7 なのか、Vm7 が微妙。その次(15小節目)は、ピアノをきく限り、Vdim7 Vm7 のようにも聞こえるがベースは、IIIm7(♭5)-VI7 のつもりかもしれない。16小節目はII7-V7。
  • 1955年、Billie Holiday/Music For Torching:Im7 | ♭III7 | III7 ♭III7 IIm7 VII7 | ♭VII7 VIm7 ♭VI7 V7 |
  • 1557年、Sonny Clark/Sonny's Crib:♯IVm7(♭5)VII7 | IIIm7(♭5) | IIIm7(♭5) VI7 | IIm7 V7 |
  • 1958年、Art Blakey And The Jazz Messengers/Moanin':IV7 | Vm7 | IIIm7(♭5) VI7 | IIm7 V7 |
  • 1958年、John Coltranke/The Last Trane:Idim7 | ♭VIIdim7 | ♭VIIm7 VIm7 V7 ♭III7 | II7 V7 |
  • 1959年、Bill Evans/Portrait In Jazz:♯IVm7(♭5)VII7 | IIIm7(♭5) VI7 | ♭VI7 ♭II7 ♯IV7 VII7 | III7 VI7 ♭VI7 ♭II7 | 。もちろんメロディは変えてある。
  • 1959年、The Genius Of Ray Charles:VIm7 | IIIm7 | VI7 V7/II | ♭VII7 VI7 ♭VI7 V7 |
  • 1960年、Intensity/Art Pepper:Im6 | ♭III7/♭VII | ♭IIdim7 Idim7 ♭VIIdim7 VIdim7 | ♭VIdim7 Vdim7 ♯IVdim7 V7 | (最後のコードはIVdim7かも?)
  • 1960年?、Ella Fitzgerald Sings The Harold Arlen Songbook:Im6 | Vm7 | VI7 II7 V7 III7 | Vim7 II7 ♭VI7 V7 |
  • 1962年、Wes Montgomery/Full House:♯VIm7(♭5) VII7 | IIIm7(♭5) | IIIm7(♭5) VI7 | II7 V7 | (やや曖昧だがおおむねこんな感じか?)
  • 1963年、Peggy Lee/I'm A Woman:Im7 | Vm7 | IIIm7(♭5) VI7 | II7 V7 |
  • 1967年、Dexter Gordon/Body And Soul:♯VIm7(♭5) VII7 | IIIm7(♭5) | IIIm7(♭5) VI7 | IIm7 V7 |
  • 1978年、Joe Pass+Niels Pedersen/Chops:♯VIm7(♭5) VII7 | IIIm7(♭5) VI7 | ♭VII7 VI7 | ♭VI7 V7 |
  • 1986年、Diane Schuur/Timeless:Im7 | ♭II7 | ♭III7 II7 V7 V7/VII | III7 II7alt V7 / |

13-14小節目を Im7 | Vm7 | と演奏しているテイクが多くありますが、これは、オリジナルのメジャー・キーから見て、同主調属調の IVm7 | Im7 | なのでしょうね。これは、なかなか捨てがたいコード進行なのですが、現代では(少なくとも私の周辺では)あまり好まれないかもしれません。ちょっと捨てるには惜しい気もしますが。

それから、15-16小節目のメロディラインについては、ストレート・メロディに合わないものも含めて、さまざまなコードが付けられています。

そして、ビリー・ホリデイのような録音では比較的シンプルなコード進行が来るかなと勝手に想像していたのですが、期待は見事に(よいほうに)裏切られました。ビル・エバンスとアイディア的に似ているというのも興味深いです。

ジャム・セッションで、「よくやる進行で」などと指示されて、特に初心者が萎縮するシーンを見かけることがあるのですが、「よくやる進行」っていったいなんなんでしょうかね。今度、誰かにきいてみようかと思います。

それから、16小節目をシンプルに「トゥ・ファイブ」で演奏する場合であっても、IIm7-V7 とするか、II7-V7 とするか、判断が分かれますよね。個人的には後者が好みかなあ。