吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

You'd Be So Nice To Come Home To の13-16小節目

ジャム・セッションなどでは、VIm7(♭5) | II7 | IIm7(♭5) | V7 | と演奏することが多いように思います。これは、大きく捉えると、ダブル・ドミナント(II7)とドミナント(V7) が2小節ずつということになります。

これはこれでよいのですが、どうもそうでもなさそう。というか、自分で選曲して人前で演奏するようなときにはもう少し様々なアプローチを検討する余地があるのではないかと考えて、改めて調べてみました。

  • 1953年?、Bud Powell:メジャー・キーの文脈で II7 | II7 | V7 | V7 / VIIm7(♭5) III7 | 。マイナー・キーの文脈で書くと、IV7 | IV7 | ♭VII7 | ♭VII7 / IIm7(♭5) V7 |
  • 1954年、Helen Merrill with Clifford Brown:VIm7(♭5) | II7 | IIm7(♭5) | V7 | 。ただし、テーマのときは、15小節目後半に♭VI7が挿入されて、4拍目ウラのV7でブレイク。
  • 1956年、Frank Sinatra/Swingin' Affair:1コーラス目は、VIm7(♭5) | ♭VI7 | IIm7/V | V7 | 、2コーラス目(転調後)は VIm7(♭5) | II7 | IIm7(♭5)/V | V7 | か。
  • 1956年、Cecil Taylor/Jazz Advance:前テーマに関してはVIm7(♭5) | ♭VI7 | IIm7(♭5)/V | (不明) |
  • 1957年、Art Pepper Meets The Rhythm Section:VI7 | ♭IIIm7 | IIm7(♭5) | V7 |
  • 1957年、Sonny Stitt/Personal Appearance:VI7 | ♭VIIm7-♭III7 | IIm7(♭5) | V7 | か。ただし、14小節目はストレート・メロディに合わない。
  • 1957年、Paul Chambers/Bass On Top:VIm7(♭5) | II7 | V7 | V7 | が基本。
  • 1957年、Coleman Hawkins Encounters Ben Webster:メジャー・キーの文脈では II7 | II7 | V7 | IV7-III7 | 、マイナー・キーの文脈で書くと IV7 | IV7 | ♭VII7 | ♭IV7-V7 | 。
  • 1958年、Chet Baker/Chet:VIm7(♭5) | ♭VI7 | III7-IV7 | VIIm7(♭5)-III7 |
  • 1958年、Sarah Vaughan/After Hours At The London House:VIm7(♭5) | ♭IIIm7-♭VI7 | IIm7(♭5) | V7 |
  • 1959年、Julie London/“Julie...At Home/Around Midnight”:15-16小節目にユニゾンによるアレンジがあるが、全体として VIm7(♭5) | II7 | ♭VI7 | V7 | 。ただし2コーラス目の14小節目は少なくともベースは♭VI7 。
  • 1960年、Anita O'Day Swings Cole Porter, Rodgers & Hart with Billy Way:VIm7(♭5) | II7 | IVm7 | V7 |
  • 1961年、Lee Konitz/Motion:VIm7(♭5) | ♭VI7 | IIm7(♭5) | V7 |
  • 1974年、Lee Konitz-Red Mitchell/I Concentrate On You:VIm7(♭5) | ♭VI7 | V7 | V7 | が基本か。
  • 1975年、Jim Hall/Concierto:前テーマは VIm7(♭5) | II7 | V7-♭VI7 | V7 | としている。ソロ以降は、VIm7(♭5) | ♭IIIm7-♭VI7 | IIm7(♭5) | V7 | などとしている。コーラスによって若干異なるが基本的な構造は同じ。
  • 1977年、Ann Burton/Burton for Certain:II7 | ♭VI7 | Vmaj7 | IIm7(♭5)-V7 |
  • 1982年、Red Garland/Misty Red:前テーマはVIm7(♭5) | ♭VI7 | V7-♭VI7 | V7 |、あとテーマは IV7 | ♭IIIm7-♭VI7 | IIm7(♭5) | V7 | としている。ソロ中もベーシストがやや迷っているので、譜面や事前の打ち合わせなしで演奏しているのかもしれない。

さて、ペッパーのミーツ・リズム・セクションのリハーモニゼーションは有名なので押さえていましたが、思いの外バリエーションがあったことに我ながら驚くとともに改めて勉強になりました。

14小節目のII7のトライトーン代理の♭VI7はマイナー・キーで好まれるのである程度想像していましたが、♭IIIm7-♭VI7 がすんなり思いつくか、このあたりはずいぶん経験や発想が問われると思います。ちなみに、ロリンズのこの小節は本当はこのようにしようとしてのうっかりでしょうか。

シナトラやホーキンス-ウェブスターのように、あえてメジャー・キーの文脈でII7-V7を使ってくるあたり、あまりモダンなアプローチではないかもしれませんが、現代に生きる(つもりの)私にとってはかえってはっとさせられます。

アン・バートンの15小節目にVmaj7を持ってきて転調してしまうのが今回の一番の発見でした。ヴァースからスローで歌っていて、とてもこのコードが効いていると思います。ちなみに、この曲、ヴァースの有無によって歌詞の解釈が180度異なることもかつて学んだことがあります。