吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

My Ideal の13小節目

よく知っているつもりで、日頃メモリー(譜面なし)で演奏できている気になっていたが、実は理解・検討が不十分だったと反省した曲。

メロディが階名で「ミソシラソドドラ」と8分音符で動いています。後半2拍が、メジャー・キーにおけるいわゆる「サン・ロク」問題になっています。メジャー・キーの「サン・ロク」なので、無批判にIIIm7-VI7とやってしまいがちなのですが、メロディとの関係で本当にそれでよいのかという問題。

この曲の場合、「サン」も「ロク」も、マイナー・セブンス・コードでも、ドミナント・セブンス・コードのオルタードでも理論的には問題ありません。

さて、諸先輩方の解釈はいかに?

  • 1956年、Dinah Washington/In The Land Of Hi-Fi:I/V Idim7/V I/V VIm7
  • 1956年?、Art Tatum & Ben Webster Quartet:I/V Idim7/V I/V VIm7
  • 1956年、Chet Baker Sings:Imaj7 VII7 ♭VII7 VI7alt
  • 1956年、Sonny Rollins/Tour de Force:Imaj7 IV7 IIIm7 IVm7(ロリンズのソロのときはぐちゃっとしていて判別不能)。
  • 1958年、John Coltrane/Bahia:やや曖昧だが、I/V IVmaj7 IIIm7 VIm7 といったところか。
  • 1959年、Kenny Dorham/Quiet Kenny:Imaj7 ♭IIIdim7 IIIm7 VIm7
  • 1960年、Jimmy Heath/Really Big!:Imaj7 IV7 IIIm7 VIm7
  • 1967年、Donald Byrd/Slow Drag:Imaj7 IVm7 III7alt VI7alt
  • 1975年、Sonny Criss/Out Of Nowhere:Imaj7 [♯IVm7(♭5) VII7] ♭VII7 VI7alt |([ ]=2拍目)

ダイナ・ワシントンやテイタム&ウェブスターの進行は個人的には好きでした。ケース・スタディをやっていながらいつも詰めの甘い私のような人間には、思いつくようで思いつかないです。

3拍目・4拍目を「サン・ロク」としている録音に限れば、IIIm7-VIm7 と III7alt-VI7alt が拮抗していました。 チェット・ベイカーソニー・クリスのように、♭VII7-VI7もこの仲間でしょうか。1拍目から半音下行進行していて美しいのですが、この流れでVI7altは、理論的に問題なくてもちょっと違和感が残るのはあくまでも個人的な感じ方の問題なのでしょうか。もしそうでないとしたらどのように説明ができるのでしょうか。

III7alt-VIm7としている録音は、私があたってみた限りではありませんでした。

2拍目に IV7 が好まれるのはメロディが♯11に相当するからでしょうか。Imaj7-IIm7-IIIm7 か Imaj7-IV7-IIIm7 かで悩んだときは、このあたりが決め手になるでしょう。逆にメロディに階名「ミ」が来たなら、IV7は使えずIVmaj7ということになりますが、それくらいならIIm7の9度にしたほうが収まりがよいという気もします。これも例外ありそうですけれども。