吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Blue Bossa の4小節目

この曲はよくジャム・セッションでも取り上げる曲で演奏する機会も多いと思います。

作者のケニー・ドーハムリオデジャネイロでの滞在経験が作曲動機になっているようです(英語版Wikipedia記事)。したがって、タイトルの Bossa とは Bossa Nova のことだと考えてよいでしょう。

特に打ち合わせなくジャム・セッションやライブで演奏するときは、いわゆる「ボサノバふう」に演奏するケースが多いかと思います。

しかし、初録音である Joe Henderson の1963年のアルバム“Page One” を聴くと、リズム・セクションは必ずしも今日演奏されるような「ボサノバふう」に演奏していないことがわかります。そして、こんにちボサノバふうの演奏では3小節目と同様 IVm7(キーをCマイナーとしてFm7)で演奏することがある4小節目も、初録音では一般して♭VII7(同、B♭7)で演奏されています。この♭VII7はサブドミナント・マイナー代理でメジャー・キーではおなじみですが、マイナー・キーでもこのように使われることがあります。スケールはナチュラル・マイナー・スケールの第7モードであるミクソリディアンということになります。

もちろん、初録音のバンドリーダーであるヘンダーソン自身も含めて、以降の演奏では、ボサノバ風の演奏でコードも♭VII7にせず、3小節目同様IVm7のまま演奏している録音のほうが目立ちます。また、初録音よりも速めのテンポで演奏するケースのほうが多いでしょう。

ある曲を、オリジナルやよく演奏される拍子やコード進行を変えて演奏することは、ジャズの伝統の1つですから、もちろん、このような変化はとても重要なことです。しかし、他方で、作者や先人たちの演奏(特に初演)に敬意を払うことも忘れてはいけないことだと思います。

例えば、この曲の初録音ではシャウトコーラス(いわゆるセカンドリフ)が演奏されています。これは、比較的速いテンポのボサノバふうの演奏であっても活用することはできるでしょう。ドラムソロとの交換に応用するアイディアも悪くなさそうです。

一方で、あきらかにバンド全体がボサノバふうで演奏しようとしているのに、ベーシストやドラマーが頑なに初録音のようなフィールで演奏するというのは、かえってジャズ精神に反しているのかなと思います。もちろん、そのような提案を演奏ですること(できること)自体は、状況次第ではとてもポジティブなことだと思います。しかし、そのアイディアがメンバー全体で共有されることが困難だと判断されるのであれば、状況に合わせて柔軟に対応することが現実的だし、最適解であるケースがほとんどなのではないかとも思います。

ただ、個人的には、この曲に限らずライブでセットリストに加える曲については、ぜひ初演(初録音)をチェックするとよいと考えています。なぜなら、この曲のシャウトコーラスのように、様々なアイディアを見つけることがあるからです。私自身の限られた経験ではありますが、なかには手垢にまみれていないコード進行を見つけることも少なくありません。その上であえて初録音とは異なる自分自身の解釈でパフォーマンスをして、その是非をお客さんや共演者に問うということがジャズ精神の1つの柱なのではと個人的には考えています。