吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Alone Together の33小節目

数え方を間違えていなければ、ブリッジの5小節目です。

曲全体としてはマイナー・キーですが、最初のセクションAの13小節目で同主調に転調し、またブリッジ後半は平行調に転調しています。

そのブリッジ前半は、大雑把に Vm7(♭5)-I7-IVm7―これは元のキー基準で書いています―となっています。これは、下属調に転調したとも、単にサブドミナント・マイナーに行っただけともどちらとも解釈できると思います。私はどちらかといえば前者かなと思いますが、ここは感じ方の問題です。

そして、35小節目(ブリッジの7小節目)が並行メジャーのトニックで、ブリッジの後半は並行メジャーに転調しています。そして、33-35小節目(ブリッジ5-7小節目)は、ブリッジ前半と対になる形で、35小節目の平行調のトニック・メジャーへのトゥ・ファイブ・ワンと転調しています。

大きくリハーモナイズしない限り、以上でめでたしめでたしとしてしまいがちなのですが、ある日、私の音楽的な良心(?)が待ったをかけました。33小節目(ブリッジ5小節目)の「トゥ」は、マイナー・セブンス・コードでよいのかと。

そこで改めて調べてみました。なお、コード表記は、一時的な転調先である並行メジャーを基準としています。

  • 1955年、Art Blakey and the Jazz Messeners / Live At Cafe Bohemia Vol. 1:IIm7(♭5)
  • 1955年、Miles Davis / Blue Mood:Im7-IV7(全体的にリハーモナイズをしていて、次の小節以降 IIm7-V7 | VIIm7-VIImmaj7 | VIIm7-III7 | と続く)
  • 1958年、Sonny Rollins / The Contemporary Leaders:IIm7(♭5)
  • 1959年、Chet Baker / Chet:IIm7(♭5)
  • 1959年、Kenny Dorham / Quiet Kenny:IIm7(♭5)
  • 1963年、Paul Desmond / Take Ten:テーマは IIm7(♭5) としているが、ソロはIIm7
  • 1972年、Jim Hall-Ron Carter / Alone Together:IIm7(♭5)
  • 1983年、Pepper Adams Conjuration Live at Fat Tuesday's Sesstion:IIm7(♭5)

ここは予想通りの結果となりました。大きくリハーモナイズしているものを除けば、IIm7ではなくIIm7(♭5)が大勢でした。 決め手となる階名「ラ♭」(II に対する減5度)の音は34小節目のメロディに出てきますが、33小節目にはありません。したがって、理論的にはIIm7(♭5)でもIIm7でもどちらでもよいはずです。

しかし、IIm7(♭5)としている録音が圧倒的に多いのは、

  1. 29小節目(ブリッジ1小節目)のハーフ・ディミニッシュ・コードと対にしている。
  2. メロディ(特に次の小節の階名「ラ♭」)や歌詞との関係。

あたりが理由でしょう。

メジャー・キーで、あるいはメジャー・キーの文脈(一時的な転調)において、いわゆる「トゥ・ファイブ・ワン」の「トゥ」は一般にIIm7が使われるケースが多いことは事実です。しかし、この曲に限らず、IIm7(♭5)が使われるケースもそれなりにあるのも事実です。

反対に、マイナー・キーの「トゥ・ファイブ・ワン」の「トゥ」がIIm7のケースもあるわけですよね。

したがって、私は、いわゆる「メジャーのトゥ・ファイブ・ワン」(IIm7-V7-Imaj7)、「マイナーのトゥ・ファイブ・ワン」(IIm7(♭5)-V7-Im)といったいい方はもう少し慎重になるほうがよいと考えます。

少なくとも、初級者を卒業するあたりから、このレッテルづけをやめたほうがよいのではと思います。というのは、このレッテルによって、「判断して聴いてしまう」という弊害が出てくるからです。本来は聴いてから判断すべきでしょう? 特にこの曲のこの部分を無批判にマイナー・セブンス・コードで演奏していた私のような方は要注意だと思います。