吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Beautiful Love の8小節目

この曲は、ほとんどのマイナー・キーの曲と同様、平行調と行ったり来たりしますが、8小節目は、7小節目の並行メジャーのトニック・メジャーから9小節目の元のキーのトニック・マイナーへ進行するところです。

よって、8小節目は9小節目Imへのトゥ・ファイブということで、IIm7(♭5)-V7 としてしまいがちです(マイナー・キー側を I として説明。以下同じ)。

この場合、通常であれば V7 には短9度のテンションを取りがちです。しかし、ストレート・メロディが2拍目から4分音符で階名「ミ・ファ♯・ソ♯」となっているため、少なくともテーマでストレート・メロディを前提とするのであれば、3拍目のV7で短9度(♭9)のテンションがメロディと衝突するため使えません。

この場合、小節前半もIIm7(♭5)を避けて IIm7 とするほうがよいだろうかという考えもよぎります。

さて、参考までに録音をいくつかチェックしてみましょう。

  • 1955年、Anita O'day/This Is Anita:テーマ、ソロともやや曖昧。ただ、ベースラインの1-3拍目は階名「ファ♯・シ・ミ」としているケースが多いので、 IIm7-V7 ということなのだろうか。ソロではV7に対して♭9の音をソロラインで弾いている(24小節目のピアノソロ)。
  • 1961年、Bill Evans/Explorations:テーマ、ソロともに、IIm7(♭5)-V7 。ただしメロディとの衝突はうまく回避している。
  • 1976年、Barney Kessel/Soaring:前テーマ(ギター・ソロ)は♭II7としている。ソロ以降、ベースとドラムが入ってからは、原則 IIm7(♭5)-V7 で、後テーマではメロディをフェイクしている。
  • 1986年、Jim Hall-Michel Petrucciani-Wayne Shorter/The Power Of Three:全体的にリハーモナイズしていて興味深いのだが、メロディを前の小節から2分音符とし、コードも7-8小節目を ♭IIImaj7-♭III7 | II7-V7 | としている。(♭III は並行メジャーの I )。ソロ中は、7小節目後半がVI7に変わることもある。
  • 1991年、Hank Jones/The Oracle:7-8小節目のコードを ♭IIImaj7-♭VImaj7 | IIm7-V7 |。ただしソロ中の8小節目前半は、IIm7(♭5) に変わることもある。
  • 1991年、McCoy Tyner/New York Reunionマッコイ・タイナーはテーマ中一貫して V7 としている。ソロ中は、IIm7(♭5)-V7 。
  • 1992年、Cedar Walton/Easy Does It:テーマ中はホーン・アレンジの都合もあってブレイク(コードなし)。ソロ中は、IIm7(♭5)-V7 。
  • 1997年、Putte Wickman/Interchange:原則 IIm7(♭5)-V7 でテーマ中はメロディがフェイクしてコードとの衝突を回避。

考え方としては、コードをストレート・メロディにあわせるか、それともコードを意識してテーマのメロディをコードと衝突しないように意識するかの大きく2つの方法があるようです。

いずれも、コードとメロディの関係を意識した演奏になっていることは間違いないと思います。

たしかに、ソロのことを考えると8小節目をストレート・メロディと衝突するからといって IIm7(♭5)-V7 を封じてしまうのは必ずしも現実的でないといえます。

それでもジム・ホールミシェル・ペトルチアーニ(この曲はデュオ)やハンク・ジョーンズのように、7小節目を工夫することで一貫して演奏している録音もあります。

Autumn Leavesの6小節目でもそうですが、マイナー・キーのドミナントでまれにそのキーのメロディック・マイナーのメロディが来ることがあり、私が関係コードとよんでいる IIm7(♭5) の扱いも含めて、リズム・セクションには非常に慎重な対応が求められます。日頃からストレート・メロディをきちんとおさえておくことが何よりも重要ということでしょう。