吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

My One And Only Love の23-24小節目

AABA形式のブリッジ(セクションB)からセクションAに戻るところです。

ブリッジは長3度上のマイナー・キーに転調していると理解すればよいのだとは思いますが、ここは元のキーに戻るところなのであえて曲全体の(あるいはセクションAの)キーで表記します。

素直に演奏するならば、IIm7 | V7 | で演奏できるのですが、それまでハーモニーが2拍ずつ動かすこともできるので、ハーモニック・リズムの観点からもそれではややあっさりしすぎている気がしていろいろとバリエーションをつけたくなるところです。

音源をチェックしてみましょうか。

  • 1953年、Frank Sinatra:IIm7-♭VI7 | V7 |
  • 1955年、Ella Fitzgerald:IIm7 | V7 |
  • 1957年、Carmen McRae/By Special Request:IIm7-♭VI7 | IIm7-V7 |
  • 1957年、Horace Silver/The Styling Of Silver:IIm7-♭VI7 | IIm7/V-V7 |
  • 1957年、Pepper Adams Quintet:IIm7 / IIIm7(♭5) VI7 | IIm7-V7 |
  • 1961年、Doris Day-André Previn/Duet:IIm7 | ♭VI7-V7 |
  • 1962年、Grant Green/Born To Be Blue:IIm7 VI7 | IIm7-♭II7 |
  • 1963年、John Coltrane & Johnny Hartman:IIm7 | IIm7-V7 |
  • 1964年、Oscar Peterson/We Get Requests:IIm7-♭VI7 | ♭IImaj7 / IIm7 V7 |
  • 1965年、Nancy Wilson/Gentle Is My Love:VIIm7(♭5)-♭VII7 | ♭IIImaj7 ♭VImaj7 IIm7/V V7 |
  • 1968年、Chick Corea/Now He Sings, Now He Sobs:IIm7 / III7 VI7 | ♭VI7-V7 |
  • 1976年、Jim Hall/Commitment:IIm7-VI7 | IIm7-V7 | ただし、ソロ中は、IIm7 VI7 | IIm7 ♭VI7 IIm7/V V7 |
  • 1989年、Chet Baker/Let's Get Lost:IIm7 IIm7/I VIIm7(♭5) ♭VII7 | IIm7/VI ♭VI7 IIm7/V V7 |
  • 1995年、Josha Redman_Spirit of the Moment_Live at the Village Vanguard:IIm7-VI7 | IIm7-V7 |
  • 1996年、Ulf Wakenius/Enchanted Moments:IIm7 VI7 | ♭VI7 / IIm7/V V7 |

個人的に、ペッパー・アダムスの23小節目3拍目、階名「ファ」のメロディに対して IIIm7(♭5) というコードは感心しません。私の整理ではハーフ・ディミニッシュ・コードの短9度はアボイドで、そのような説明が多いと思いますが、たとえ、そのような説明を知らないとしても響きが気になるはずです。事実、チック・コリアは、III7という短9度をキャッチできるコードを選んでいます。

1960年代には挑戦的なハーモニーが目立ちます。当時の流行りだったのでしょうか。オスカー・ピーターソンはストレート・メロディにはあわないのですが思い切って一時的な転調をしていますし、ナンシー・ウィルソンもまた別のアプローチをしています。

全体的に見ると、IIm7 | V7 | を基本としつつも、♭VI7 や VI7、あるいはIIm7/V などをどう配置するかということろがそれぞれ好みということなのでしょう。メロディとの関係でいうなら、23小節目3拍目を VI7 とすればメロディが♭13 に来ますし♭VI7とすれば13に来ます。また、24小節目1拍目を♭VI7とすればメロディは♯11に来るわけですよね。

ジム・ホールのCommitmentのこの曲はトミー・フラナガンとのデュオです。ソロ中、コードが異なっていますが、仮にこれをあらかじめ譜面や口頭で打ち合わせせず、音のコミュニケーションだけで結果的にその場でリハーモナイズしたとしたら本当に素晴らしいことだと思います。個人的にはそれくらいアンテナ張ってお互いの音をキャッチしながら演奏すべきだと思いますし、そのような対応力を身につけるためにも、このような研究を少しずつでも積み重ねているところです。