吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Lover Man の7小節目

歌入りでこの曲を演奏したときに、そういえばこの部分のコードはどうなっているのだという話になったことがありました。

気になったので改めて調べてみました。

  • 1944年、Billie Holiday(Decca盤):♭VI7-V7
  • 1946年、Charlie Parker(Dial盤):♭IIIm7 ♭VI7 IIm7(♭5) V7
  • 1949年、Django Reinghardt/Djangology:♭VI7-V7
  • 1953年、Lee Konitz Plays with the Gerry Mulligan Quartet:非常に曖昧。ベースが終始変なラインを弾いていてあてにならない(曲をきちんと覚えていなかったのだろうか)。
  • 1954年、Stan Kenton:♭VII7 ♭VI7 V7 /
  • 1954年、J. J. Johnson/The Eminent Vol. 1:♭IIIm7 ♭VI7 IIm7(♭5) V7
  • 1957年、Cannonball Adderley/Enroute:♭VI7-V7
  • 1957年、Sarah Vaughan/Swingin' Easy:♭VI7-V7
  • 1962年、Count Basie/Sarah Vaughan:冒頭はIIm7(♭5) / / V7 のように聞こえるが、それより先(15小節目、31小節目)は、♭IIIm7 ♭VI7 IIm7(♭5) V7。
  • 1963年、Sonny Stitt-Coleman Hawkins/Sonny meets Hawk!:おそらく譜面を見ずにやっているのだと思うので厳密に特定できないが、おおむね ♭VI7 / IIm7(♭5) V7 と思われる。
  • 1969年、Bill Evans-Jeremy Steig/What's New:II7alt-V7。ちなみに、6小節目を VI7 / III7 ♭III7 としているのを聞き逃してはならない。
  • 1975 年、Duke Jordan/Lover Man:IIm7(♭5)/♭VI-V7 か。
  • 1982年、Art Pepper-George Cables/Goin' Home:Imaj7 / IIm7 ♯IIdim7
  • 1985年、Cedar Walton/The Trio Vol. 1:テーマのときは ♭IIIm7 ♭VI7 II7alt V7 だが、ソロ中の3拍目はIIm7(♭5)やIIm7としているようだ。なお、6小節目は、♭VII7-♭III7。

1拍ずつ動くアイディアはすでにチャーリー・パーカーが1940年代に行っていて、これを踏襲した録音も多いのですが、メロディに対しては、♭VI7-V7 とするのが自然というか素直というか、特に歌の場合は結果的にメロディをなぞることになるので歌いやすいのかもしれません。

ビル・エヴァンスとジェレミー・スタイグのハーモニーは、2人の演奏スタイルにとてもマッチしています。ちなみに、メジャー・キーの II7 は、原則として♭9や♭13になることはないのですが、ブルージーな場面(例えば Gee Baby, Ain't I Good To You の3小節目前半)やトニック・マイナーへの進行を疑わせるような場面では使われることがあります。この曲の場合、後者にあたるのですが、メロディも II7alt に即したものになっているのでこれ一択になるでしょう。