吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Black Nile の17-18小節目

この曲の14-16小節目についてはすでに記事にしていて、ジャズ・オリジナルなのだからまずはショーターの演奏を聞こうよという内容でしたが、今回は、オリジナルを踏まえた上で、カバーの再解釈も悪くないよね、という内容です。

今回扱うのは、AABA形式のブリッジ部分、すなわちセクションBの1-2小節目で、同じセクションの5-6小節目(コーラス全体の21-22小節目)も同様です。

まず、ショーターのオリジナル(1964年録音のアルバム Night Dreamer)を聴いてみましょう。ジャズ・オリジナルなので実音で書きますが、この部分は、Gm7 | C7 | となっていて特にリズム・セクションのいわゆるキメは控えめです。ドラムが、メロディに対するレスポンスにあたるプレイをし、またピアノは2拍目ウラでコードを弾いていますが、ベースは基本的にウォーキングしています。

  • 1988年、Fred Hersch/E. T. C. :Gm7 A♭7 | C7 G♭7 | で、いわゆる「キメ」もある。ただし、21-22小節目は Gm7 A♭7 | Gm7 G♭7 | 。最初はベーシストの「事故」かと思ったが後テーマでも同様にやっているので意図的なアレンジか。ちなみに、ソロ中は、ショーター同様、Gm7 | C7 | としている。
  • 1991年、Jeff Watts/Megawatts:Gm7 D7alt | Gm7 C7 | で特に「キメ」はない。ソロ中は曖昧だが、いちおうこのコードでやっている。
  • 1993年?、Joey Calderazzo/The Traveller:Gm7 | C7 | で「キメ」なし。
  • 1993年、Vennessa Rubin/Black Nile:歌入りなのでキーが異なるが、オリジナル・キーに移調して書くと、Gm7 A♭7 | C7 G♭7 | で「キメ」あり。ただし、21-22はGm7 A♭7 | Gm7 G♭7 |
  • 1995年、Joey Defrancesco:Gm7 A♭7 | C7 G♭7 | で「キメ」あり。
  • 2007年、Rob Parton/Just One Of Those Things:Gm7 | C7 | でリズム・セクションの「キメ」なし。

だいたいこんな感じです。いわゆる「キメ」をやるのかやらないのか、ということもありますが、もし「キメ」をやるのであれば、コードに動きがあったほうがよいので、Gm7 A♭7 | Gm7 C7(またはG♭7) | というような動きは自然だし、また、このコードは、仮に「キメ」をやらないにしてもリハーモニゼーションとして、好みの問題はあるにせよ、よいアイディアだと個人的には考えます。

さて、この曲のキーはDマイナーで、ブリッジは平行調のFメジャーに転調していると考えることができますが、冒頭のGm7は、FメジャーのIIIm7であるにも関わらずドリアンなんですよね。だから、この曲の演奏に慣れるまでは、調性を見失いそうになっていたのは私だけでしょうか。Gm7 がなんとなく IIm7 か何か(そういう自覚さえなかったかも)に感じて、いきなり 20小節目のFmaj7に行こうとしたときに戸惑った覚えがあります。