吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Isfahan の2小節目

ジャズ・オリジナルなので、実音表記としましょう。

1小節目のD♭maj7と3小節目がE♭7に挟まれているので、常識的に考えるとB♭7、あるいはB♭m7が考えられるところです。

そして、この曲の場合B♭7が妥当だと思いきや、メロディが2分音符でA-B♭と動いています。B♭7に対してAの音は経過音やアプローチ・ノートなどの場合を除いてどう頑張っても使えません。この場合は、強拍の1拍目の2分音符ですから、どう考えても使えません。よって、例えば市販の譜面を見るとB♭maj7-B♭7 としてメロディとコードに整合性を持たせています。

ただ、先日記事にした Stupendous-Lee の24小節目のような例も考えられます。つまり、この曲の2小節目のコードはあくまでも B♭7 であり、メロデイのAはあくまでも3拍目のB♭の音に半音でアプローチしているのではないか、という仮説です。

そこで、エリントン楽団のアルバム、The Far East Suite をあらためて聴いてみました。

この曲ではエリントンはほとんど(というか、まったく)ピアノを弾いていないので、ホーン・セクションの奏でるコードが頼りです。ベースの演奏から、この小節のコードはB♭がルートであることは明らかです。

前後しますが、2小節目後半は、トロンボーン・セクションのロングトーン(3拍目ウラの付点4分音符)より、B♭7であることは明白。問題の前半ですが、同じくトロンボーン・セクションが1拍目ウラにわずかに8分音符のコードを演奏しているに過ぎません。

仕方ないので、PC上で再生速度を1%に設定して超スロー再生して確認してみたところ、少なくとも私の耳にはB♭maj7に聞こえました(18小節目も同様)。サックス・セクションのユニゾンによる半音下行フレーズがA♭に着地していますが、これは3拍目のB♭7のアンティシペーションであって、あくまでも前半はB♭maj7のようです。

そして、2コーラス目のアンサンブル部分を聴いても、この曲の2小節目は一貫して、B♭maj7-B♭7 で演奏されていることがわかりました。

これは、VImaj7-VI7 ということになりますが、一時的な転調を別にすればメジャー・キーにおいて VImaj7 が使われる大変珍しいケースといえるのではないでしょうか。

なお、Isfahan は、1967年のエリントンのアルバム、The Far East Suite よりも、ジョー・ヘンダーソンLush Life: The Music Of Billy Straihorn(1992年)で覚えた方も少なくないでしょう。ミディアム・テンポで演奏されるヘンダーソンの演奏も素晴らしいですが、是非ジョニー・ホッジスが奏でるエリントン楽団のほうもチェックしてほしいと個人的には思います。