吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Stupendous-Lee の24小節目

突然ジャム・セッションではあまり取り上げないジャズ・オリジナルの話題ですみません。ジジ・グライスの曲で、When Farmer Met Gryce に収録されています。

AABA形式のセクションBの8小節目、つまり、セクションAに戻るところです。

ジャズ・オリジナルなので実音で書きます。キーがFメジャー、29小節目(セクションAの冒頭)のコードがFmaj7 で、話題の28小節目はトニック・メジャーへのなんの変哲もないトゥ・ファイブ、すなわち、Gm7-C7 です。

では、なぜ、そのような箇所をわざわざ取り上げたのかというと、この小節のメロディが、2分音符でB♭-Bなのです(厳密には、シンコペーションしているので、Bは2拍目ウラから入っているのですが)。

C7 に対してメロディがB、しかも、経過音ではなくシンコペーションしているくらいですから、思いっきり衝突しています。これをどう考えるか。

ちなみに、29小節目(セクションA冒頭)のメロディはその半音上のCから始まっています。つまり、28小節目のメロディB♭-Bは、Cへのクロマティックな上行フレーズの一部をなしていると考えることもできます。そういう意味で、B音は経過音といえなくもない、わけですが・・・。

さて、この音について、あなたはどう考えますか。

そもそも、この曲のこの部分を何気なく聴いて、問題だと感じるか許容されると感じるか、というところから考える必要があるでしょう。

そこで思い出すのが Isfahan の2小節目です。キーは、D♭メジャー、メロディは2分音符でA-B♭と動いていて、コードは前後関係からB♭7 だとしっくりするところ。しかし、メロディAに対してB♭7というわけにはいかないから B♭maj7-B♭7 となっているのです。

ドミナント・セブンス・コードは、対応するテンションやスケールのバリエーションが多く、ほとんどすべての音をメロディに持つことが出来るのですが、理論上、完全4度(アボイド。コード・トーンの3度と短9度を形成)と長7度(そもそもアボイド以前にスケール上にない音だが、コード・トーンの7度と短9度を形成)の2音だけは使うことができないとされています。

Gigi Gryce のこの曲を、この理論への挑戦と受け止めるか、それとも単なるうっかりだったのか。