吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Blue Minor の21-24小節目

先日、ジャムでこの曲を演奏するにあたって譜面を渡されたのですが、23小節目のコードが A♭maj7 になっていました。

ところが、Sonny Clark のアルバム Cool Struttin' ではGm7(♭5) です(もちろん、次の小節はC7)。19小節目と混同したのかもしれませんね。

もちろん、A♭maj7 としても理論的にはメロディと衝突しないので誤りというわけではなく、リハーモニゼーションしたという主張は成り立つでしょう。しかし、印象はずいぶん異なります。

さて、マイナー・キーの曲には平行調であるメジャー・キーと行き来するものが多いです。この曲も例外ではなく、AABA形式のうち、セクションAがFマイナー・キー、セクションBがその平行調であるA♭メジャー・キーになっています。

セクションBの後半(21-24小節目)が B♭m7 | E♭7 | Gm7(♭5) | C7 | です。

このうち21-22小節目は、A♭メジャー・キーの、23-24小節目はFマイナー・キーのいわゆる「トゥ・ファイブ」で、私は全体としてそれぞれドミナントだと考えます。

ドミナントは一般にトニック・メジャーかトニック・マイナー、あるいはそれらの代理コードに進行するケースが多いのです。しかし、これらのトゥ・ファイブはいずれもトニック・メジャーまたはトニック・マイナーに進行していませんね。

21-22小節目の「トゥ・ファイブ」は、並行マイナーの「トゥ・ファイブ」に、また、23-24小節目の直後には25小節目に同じ「トゥ・ファイブ」が続いています。

まず、前者ですが、これは、並行マイナーへの転調で比較的見かける気がします。ちょっと思いつくのは、Old Folks の8小節目や I Didn't Know What Time It Was の8小節目でしょうか(それぞれ別のコードで演奏するケースも少なくないですが)。

次に後者ですが、24小節目がセクションBの終わりなので、23-25小節全体を並行マイナーの文脈でドミナントだとみなすにしても、例えば(メジャー・キーですが)Honeysuckle Roseの冒頭4小節のような単純な「トゥ・ファイブ」の繰り返しとまったく同一視してよいかというとちょっと引っかかるものがあります。

私は、Blue Minor の24小節目のようなドミナントの使い方を、セクションA全体、すなわちDマイナー・キーへのドミナントと理解しています。すなわち、転調の一つの技法ではないかということです。例えば、Almost Like Being In Love の23-24小節目なんかもこれにあたるのではないかと思うのですがどうでしょうか。

このようなドミナントについて、クラシック、あるいはジャズ和声でどのような説明をしているかもしご存知の方がいらっしゃればご教示いただけるとありがたいです。