吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Over The Rainbow の2小節目

この曲はよく知っているのだけれども、コード進行のバリエーションが多すぎて、譜面なしで演奏するには無謀だと個人的には思います。いざ、自分で演奏しようとコードを検討すると、なかなか全体的に調和させるのが難しく非常に悩ましいのですが、それもまた面白いともいえます。

さて、2小節目です。

3-4拍目のメロディが4分音符で階名「シド」と動いています。したがって、次の3小節目前半をIVmaj7とするとしても、2小節目後半を単純に Vm7-I7 にはできません。なぜならば、Vm7とメロディの階名「シ」が衝突するからです。

では、どのように演奏しているのでしょうか。

  • 1939年、Judy Garland:IIIm7 / / I7
  • 1951年、Bud Powell:IIIm7 / ♯Im7 ♯IV7
  • 1955年、Stan Getz/In Stockholm:IIIm7 / V7 I7ともIIIm7 / / I7 とも。あるいは、IIIm7のみも? スタンゲッツのソロラインは、IIIm7-I7あるいはIIIm7 / Vm7 I7 に基づくフレーズもある。10小節目、26小節目も検討。
  • 1956年、The Modern Jazz Quartet/Fontessa:イントロはIIIm7 / / VI7 のようにしているが、テーマでは IIIm7 のみ。
  • 1961年、Ella Fitzgerald Sings The Harold Arlen Song Book:IIIm7 / ♭II7 I7
  • 1961年、Sarah Vaughan/Soft And Sassy:IIIm7 / ♯IVm7 [Vm7 I7] ([ ] 内、8分音符)
  • 1961年、Tony Bennett Sings A Strings Of Harold Arlen:IIIm7-III7
  • 1979年、Art Pepper/Live In Tokyo:原則として、IIIm7 / Vm7 I7 のよう。テーマでは、ピアノが慎重に演奏したりアルトがフェイクしたりして衝突を回避している。
  • 1982年、Red Garland/Misty Red:ピアノだけを聞く限り、♯IVm7/VII VII7 V7 I7 のようだが。

それぞれメロディの扱いには気を遣っている様子がよくわかって興味深いです。ほぼ私の想定内だったのですが、唯一思いつかなかったのがトニー・ベネットのIIIm7-III7というもの。確かにIII7はIVmaj7に進行しますよね。