吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

It Could Happen To You の7小節目

ジャム・セッションの定番曲ですが、なぜ皆が皆IIIm7(♭5)で演奏するのかといつも疑問に思っていました。

「そりゃ、みんな音源なんかちゃんときいていないもん、曲集のコードがそうなっているからでしょ!」という至極まっとうな答えを吐くと話が終わってしまいます。

多勢に無勢、声の大きいものが勝ち。

そうなんですが、こちらにも意地があるので調べてみました。

  • 1950年代、Bud Powell:III7
  • 1956年、Miles Davis/Relaxin':IIIm7(♭5)
  • 1957年、Berney Kessel/The Poll Winners:VIIm7-♭VII7
  • 1957年、Frank Sinatra/Close To You And More:III7
  • 1957年、Red Garland/Revisited!:III7もしくは♭VII7
  • 1957年、Sonny Clark/Dial "S" For Sonny:III7か。ただし、ベースはVIIm7-♭VII7に基づくようなラインも弾いている。
  • 1958年、Chet Baker/It Could Happen to You:III7
  • 1959年、Dinah Washington/What A Diff'rence A Day Makes!:III7
  • 1964年、Art Blakey And The Jazz Messengers/One For All:このへんはちょっとラフで、IIIm7だったりIII7だったり
  • 1964年、Monica Zetterlund-Bill Evans:VIIm7-III7
  • 1964年、Sonny Rollins/All The Things You Are:IIIm7(♭5)
  • 1974年、Kenny Drew/Dark Beauty:III7
  • 1986年、Carmen McRae/Any Old Time:III7
  • 1993年、Chick Corea/Expressions:VIIm7-III7やIII7
  • 1996年、Keith Jarrett/Tokyo '96:変幻自在でなんでもあり

マイルス・デイビスの名盤中の名盤、Relaxin’がIIIm7(♭5)になっているので、この影響が大きいといえるかもしれませんが、調べた限りではこのコードは少数派で、圧倒的にIII7やそれに類するコードが多いことがわかります。

メジャー・キーにおいて、階名「ミ」で伸びているときのIII某、階名「ラ」で伸びているときのVI某は、たいていドミナント・セブンス・コードという傾向がある(階名「レ」のII某もか?)と私は密かに気づいていたのですが、この曲はその典型例だと考えます(もちろん例外はある)。

それと、もうひとつ。メジャー・キーのIII7の関係コード(ドミナント・セブンス・コードに先行するマイナー・セブンス・コードまたはハーフ・ディミニッシュ・コード)は、ダイアトニック・コードのVIIm7(♭5)だけでなく、VIIm7もかなり使われるのではという注意喚起を私は一貫してしているのですが、この曲のこの箇所でもこの傾向がいえること。

それから、さらにあとひとつだけ指摘させてもらうとすれば、仮にここをIII7ではなく次の小節のVI7の関係コードだとみなすとしても、VI7の解決先がIIm7、すなわちマイナー・コードだから、「はいはい、マイナーのトゥ・ファイブ・ワンね!」という短絡的思考(失礼)で、IIIm7(♭5)にしていないか、ということ。

「サン・ロク・ニ」を「広義のトゥ・ファイブ・ワン」と捉えること自体に慎重論はあるけれども、私はどちらかといえば容認する立場。それでも、解決先の「広義のワン」がメジャーかマイナーかによって「トゥ」がマイナー・セブンスかハーフ・ディミニッシュか、そう単純に決まるものではありません。狭義のトゥ・ファイブ・ワンにもいえることですが、これについてもいずれどこかで記事にすることになるかもしれません。

それを見越して「カテゴリ」に入れておくので、興味のある方は芋づるで調べてみてください。