吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

If I Should Lose You の28小節目

うしろから5小節目です。

この曲はマイナー・キーで始まって平行調のメジャー・キーで終わります。

最後の29-31小節目は、IIm7 | V7 | Imaj7 | と、いわゆる「トゥ・ファイブ・ワン」で終わることが多いです。それに対して、28小節目は、メジャー・キーの「サン・ロク」ということで、身近なところでついIIIm7-VI7 としている譜面や演奏を見たり聴いたりすることがありますが、果たしてどうなのか。

  • 1949年、Charlie Parker with Strings:III7-VIm7
  • 1952年、Nat King Cole/Penthouse Serenade:III7-VIm7
  • 1960年、Hank Mobley/Soul Station:III7-VIm7
  • 1961年、Booker Little And Friends:IIdim7/VI-VIm7
  • 1962年、Roy Haynes/Out Of The Afternoon:III7-VIm7
  • 1966年、Nina Simone/Wild Is The Wind:VIm7
  • 1980年、George Shearing-Carmen McRae/Two For The Road:III7 / VIm7 ♭VIdim7 (次の小節はI/V)
  • 1995年、Keystone Trio(John Hicks-George Mraz-Idris Muhammad)/Heart Beats:III7-VIm7
  • 2002年、Mulgrew Miller/Live At Lincoln Center Vol. 1:III7-VIm7

ほとんどがIII7 VIm7 となっています。メジャー・キーの側で書いたけれども、本当はこの部分を平行調で考えるべきなのだと思います。つまり、V7-Im7 ということですね。

そもそも、小節後半のメロディ、階名「ドレ」は、メジャー・キー側から見たVI7にはマッチしません。「ド」は♯9なのだという主張は当たりません。なぜなら、VI7がオルタード・スケールに対応するにせよ、半音-全音ディミニッシュ・スケール(いわゆる「コンディミ」)に当たるにせよ、「レ」の音はスケール上に存在しないからです。よって、少なくともストレート・メロディを想定するのであればVI7は誤りといえるでしょう。

なお、ソロ中であってもIII7-VIm7はよく守られる傾向にあります。都合よくIIIm7-VI7に変更してはいけないと私は思うのですがどうでしょうか。