吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Everything Happens To Me の6小節目

特になんだというわけでもないかもしれないのですが、ちょっと思うところがあるので記事にしてみました。

  • 1940年、Tommy Dorsey楽団とFrank Sinatraによる初録音:IIIm7-VI7
  • 1949年、Charlie Parker with Strings:IIIm7-VI7
  • 1950年代、Bud Powell:Imaj7-VIm7
  • 1955年、Billie Holiday / Lady Sings The Blues:IIIm7-VI7(3拍目、ベーシストは♭IIIを弾いていることが多いが、ピアノは明らかにVI7)
  • 1956年、Stan Getz In Stockholm:IIIm7-VI7(3拍目はやや曖昧)
  • 1957年、Ella Fitzgerald / Like Someone in Love:IIIm7 / IIIm7/VI VI7
  • 1959年、Thelonious Monk / Alone in San Francisco:VIm7-II7
  • 1963年、Bill Evans / Trio '64:IIIm7-VI7
  • 1963年、Sonny Rollins / Live in Paris 1963:IIIm7-VI7
  • 1973年、Duke Jordan / Flight to Denmark:IIIm7-♭IIIdim7
  • 1978年、Rosemary Clooney / Tribute to Billie Holiday:IIIm7-♭IIIdim7
  • 1987年、Chet Baker / Let's Get Lost:IIIm7-♭IIIdim7
  • 1993年、Charle Haden Quartet West / Always Say Goodbye:IIIm7-VI7
  • 1994年、Keith Jarrett / At the Blue Note:IIIm7-♭IIIdim7
  • 2006年、Barry Harris Trio / Live From New York! Vol. 1:IIIm7-VI7

調べる前は IIIm7-VI7 が多くて、次点が IIIm7-♭IIIdim7 かなと思っていましたが、ほぼ予想通りの結果となりました。後者は、私が調べた限り1970年代以降に多く見られましたが、なにかきっかけとなった録音があったのかどうかまではサンプルが少ないのでわかりません。

一人だけ異彩を放っているのはモンクの Alone In San Francisco でしょうか。これは、ぜひこの小節だけでなく、全体をご自身で採譜していただきたいと思います。モンクのプレイそのものがユニークですが、ピアニストでなくてもハーモニーセンスから学ぶことも非常に大きいと思います。どうしてこのような発想になるのか、偉大なことに加えて、どこまでも自由な精神の持ち主だったことがわかります。

この小節目の後半をVI7で演奏する場合に中止すべきことが一つあります。それは、メジャー・キーのVI7でありながら少なくともテーマ中では♭9のテンションが使えないことです。 なぜならば、メロディが階名「シ」で、これが長9度のテンションに相当するからです。

メジャー・キーにおける VI7 には、主にテンションが♭9+♭13となるケース(ハーモニック・マイナー・スケールの第5モードやオルタード)と、テンションが♮9+♮13となるケース(ミクソリディアンやミクソリディアン♯4)の両方があります。どちらかといえば前者のほうが多いような印象ですが、この曲のこの小節は後者にあたります。

特にピアニストやギタリストは、メロディに十分注意を払ってVI7(♭9)を演奏しないようにしていただきたいものです。目や記憶だけでなく、日頃から十分耳を使って演奏していれば避けられるものです。