吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

Old Folks の4小節目

私が「メジャー・キーのサン・ロク問題」と呼んでいる議論。

この曲に関しては、IIIm7-VI7かIIIm7(♭5)かIII7-VI7かという議論で、加えて、この曲には当てはまらないが、中にはIII7-VIm7(一例として、記事にした I Should Lose You の28小節目がありますが、これは並行マイナーのV7-Im7)ということもあるので、本当に注意が必要です。

メロディと、コード・トーンや対応するスケールが一致しないコードは原則として選択できないというのはよいとして、この曲の場合は、メロディが階名ミが伸ばされているので、いずれも問題ありません。つまりチョイスの問題です。

実際に音源を聞いてみるとどのコードも同じくらいよくきかれます。

  • 1938年、Larry Clinton 楽団(歌、Bea Wein)、おそらくこの曲の初録音:Imaj7
  • 1950年代前半、Charlie Parker のVerve 盤(歌のコーラス有):IIIm7(♭5)-VI7
  • 1957年、Lou Donaldson/Wailing With Lou:IIIm7-VI7
  • 1957年、Jackie McLean/McLean's Scene:IIIm7(♭5)-VI7 と IIIm7-VI7 が混在。
  • 1958年、Wes Montgomery:III7-VI7
  • 1959年、Kenny Dorham/Quiet Kenny:前テーマでは一貫して IIIm7(♭5)-VI7 だが、以後は、IIIm7-VI7、III7-VI7も混在。
  • 1959年、Max Roach:ピアノやギターがいないので判別不能で、ソロやベースから IIIm7(♭5)-VI7 か IIIm7-VI7 と思ったが、一部III7-VI7 に基づくソロラインもあり。
  • 1960年、Jimmy Smith/Open House Plain Talk:IIIm7-VI7
  • 1961年、Miles Davis/Someday My Prince Will Come:III7-VI7
  • 1962年、Oscar Peterson/Live at the London House:III7-VI7
  • 1974年、Dexter Gordon/The Apartment:IIIm7-VI7
  • 1980年、Ernestine Anderson/Never Make Your Move Too Soon:基本的に、IIIm7-VI7だが、ソロと後テーマで III7-VI7が聞かれる。
  • 1996年、Ulf Wakenius/Enchanted Moments:III7-VI7

古い録音ほど、IIIm7(♭5)</sup-VI7が多く、新しいほどIII7-VI7が好まれるという傾向はありそうです。

私の仮説なのですが、メジャー・キーにおける、II某、III某、VI某において、マイナー・セブンス・コード、ハーフ・ディミニッシュ・コード、ドミナント・セブンス・コードの選択に迷ったとき、メロディがそれぞれのルートの場合は、モダンになればなるほどドミナント・セブンス・コードが好まれるように感じます。もちろん、例外はありますし、文脈にもよるので一概にはいえないのですが。

それから、演奏するながれで、一貫して一つのコードを守るべきなのか、それとも、変更して構わないかという問題もあります。これもテンポや演奏スタイルの問題があるでしょう。例えば、ビッグ・バンドや2管以上のコンボでホーン・アレンジとの関係からそもそもリズム・セクションが勝手に変更できないという場面はあるでしょうし、ソロイストのラインと矛盾するコードを伴奏のリズム・セクションが勝手に弾くのもいけないと思います。

でも、リズム・セクションがソロイストに対して別のコードを提案してはいけないかといえばそんなことはないわけです。お互いの音をききあっているか、リスペクトがあるか、ということが重要であって、もっといえば、相手(特にソロイスト)が不快に思ったりフラストレーションを感じたりしているのに、構わず演奏するピアニスト、ギタリスト、ベーシストというのはデリカシーを欠いているのかなと個人的には考えます。