吉岡直樹のジャズ・スタンダード研究

ジャズ・スタンダードについてひたすら書きます。

There Will Never Be Another You の11-12小節目

むしろ興味があったのは13-14小節目だったのだが、聴いていたらここも多少気づきがあったので記事にしてみます。

まずは音源を聴いてみましょうか。

  • 1950年、Lionel Hampton:Imaj7 III7 | VIm7 |
  • 1950年、Sonny Stitt:曖昧なところもあるが基本的に Imaj7 | Imaj7 | か。
  • 1951年、Wynton Kelly:Imaj7 | VIm7 |
  • 1952年、Oscar Peterson-Lester Young/The President Plays:Imaj7 | VIm7 |
  • 1954年、Chet Baker Sings:Imaj7 | VIm7 |
  • 1955年、Lee Konitz with Warne Marsh:Imaj7 | VIm7 |
  • 1956年、Count Basie with Joe Williams:Imaj7 | Imaj7 |
  • 1956年、Sonny Stitt Plays:Imaj7 | VIm7 |
  • 1959年、Red Garland/At The Prelude Vol. 1:ベースラインはやや曖昧だが、ガーランドの左手を聴くと、Imaj7-III7 | VIm7 | のように聞こえる。
  • 1959年、Sonny Rollins:やや曖昧だが基本的にImaj7 | Imaj7 | か。
  • 1967年、Dexter Gordon/Body And Soul:これも曖昧。前テーマは Imaj7 | IVdim7/VI-VIm7 | のように聞こえる。ソロも似たような考えで、Imaj7 | III7-VIm7 | なのかもしれない。
  • 1967年、Jullie London/Nice Girls Don't Stay For Breakfast:そこまで明確ではないが、Imaj7-III7 | VIm7 | か。
  • 1973年、Sarah Vaughan/Live In Japan:最初のコーラスのベースラインは混乱しているが、2コーラス目を聴く限り Imaj7 | Imaj7 |

メロディは、階名で「ソミレド | レドレド」のようになっているので、大きく捉えたらトニック・メジャーなのですが、次の13-14小節目をダブル・ドミナントの II7とするときき、12小節目を VIm7 が好まれる傾向があります。

この VIm7 は II7 の関係コード(と私は呼んでいるもの)で、つまり、VIm7-II7 が「広義のトゥ・ファイブ」の関係にあります。

ふつう、広義のトゥ・ファイブは、トゥが小節の前半、あるいは、奇数小節目に来ることが多いと思います。すなわち、広義の「トゥ・ファイブ」全体が、小節全体なり、2小節の単位にうまく収まっていることが多い。

ところが、注意深く観察してみると、このケースのように、奇数小節目にVIm7 が13-14小節目という2小節の単位から「はみ出す」ような形で先行するケースもそれなりに見つけることができます。

トニックは、どのコードにも進行することができるとされているので、Imaj7-II7という進行ももちろん珍しいものではないのですが、Imaj7-VIm7-II7のようにVIm7を挟むことで、VIm7がII7をより効果的に「呼び込む」効果があると私は考えています。

この VIm7 はトニック・メジャー代理でもあり、かつ II7 の関係コードでもあるため、このような独特の効果があるのではないかと考えていますが、皆さんはどのように感じたでしょうか。

さらに、Imaj7-VIm7の間にIII7を挟むことで、このVIm7をさらにさり気なく演出することができます。上記の中ではライオネル・ハンプトンレッド・ガーランドがこれにあたります。

デクスター・ゴードンの録音は少し変わっていて、III7なりIVdim7/VI(別の書き方をすればIII7(♭9)/VI)なりが12小節目の前半に来ています。確かにメロディを考えるとこの位置にもってくると面白いですね。

それはともかく、このIII7やそれに類するコードが挟まれると、VIm7は、トニック・メジャー代理というよりは、平行調のトニック・マイナーのような響きにも感じられるように思います。もちろんIII7は平行調ドミナントです。

もうこうなってくると理屈だけではなく感じ方、あるいは演出に近い領域になってくるので、ミュージシャンによって感覚や表現はさまざまでしょう。ぜひ皆さんのご意見も伺ってみたいところです。

なお、メロディとの関係から、12小節目をVI7にできないことにも注意してください。